11月11日 どんなときも(槇原敬之)

何の思し召しだったのだろうか?
僕はそこにいた。
場違いな自分に戸惑う毎日だった。
ときに消えてなくなりたい・・・・なぜって、ここにいると僕が僕でないようなのだ。
昔のように輝いていない。
仲のいい友達・・・・?
ライバルはいて・・同時に、でも友達だと・・・・思う。

僕の背中は自分が思うより正直かい?
誰かに聞かなきゃ、不安になってしまうよ

神様がいった。
「あなたが欲しいものはなんですか?」
「居場所が欲しいです。ここでは僕が僕でいられないのです」
「はい、あなたに武器を与えます。これで居場所を奪うといいです」
「奪う・・・? 今、いる人を倒すのですか?」
「どうすれば奪えるかは自分で考えるのです」

ライバルと友達の関係は成り立つのだろうか?
そんな不安がよぎることがあったが、僕は一生懸命だった。
武器はといえば、何のことはない、走るだけだった。
なんだ、昔からやってきたことじゃないか。

僕は走った。
もうひたすらに。
走れば走るほど、僕は僕でありえた。
僕に居場所ができていくのを感じた。
ホッとしたことを覚えている。

そして、誰かの居場所を奪っていることに気が付いた。
どうすれば、いいだろう?
そのことを喜んでいる自分がいる??
そんなはずはない・・・そんなはずは・・・

もしも他の誰かを 知らずに傷つけても
絶対ゆずれない夢が僕にはあるよ

ここは、僕にとって夢の場所。
ようやく、ここに来たのに・・・
居場所を確保するのに必死だ。
毎日は目まぐるしく、時に自分を見失う。
そして、よっこいしょと居場所に座ったら、また居場所を失った。

神様がいった。
「あなたが欲しいものはなんですか?」
「夢を手放したくないです」
「あなたは自分の武器を知ってるはずです。もう後はひたすらに――」
「誰も傷つけたくないです」
「ここは夢がかなう場所です。残酷な場所です。なぜなら、全員の夢が叶うことはないからです。夢に破れる人がいます」
「優しさを失くしてまでも、夢をかなえることは・・・」
「今、あなたは優しい人ではないですか? 考えてください。あなたはここに来るまでに、幾人もの人から夢を奪ったのです。結果、友達を失いましたか? あなたは優しい人ではいられませんでしたか?」
少しの間、過去を振り返る。
あの人に勝った・・あの人にも勝った・・・・今でも友達のつもりだ。
「あなたは多くの人に勝ってきました。彼らの今は、どうでしょう? もし頑張っているなら、どう思いますか?」
「頑張ってほしいです。心から」
神様は満足そうに頷いた。
「でも・・・僕は夢をかなえて・・・、同じ夢をみていた彼らはあきらめて・・別の夢を」
「彼らには彼らの人生があるのです。同情は・・・ときに不適切で驕りです」
言葉がない・・・。
「あなたは・・・・もうひたすらに走るのです」

あの泥だらけのスニーカーじゃ
追い越せないのは
電車でも時間でもなく
僕かもしれないけど

僕は走った。
走って、走りまくった。
走れば走るほど、寿命は縮まるかもしれない。
苦痛を伴うことは少なくない。
でも一心不乱に走った。
命を削って・・・走った・・・・時に意識を失うまで。
走ることは生きていることとイコールだった。
今が好きだから・・・それ以外には考えられないのだ。

そして・・・僕は成功を手に入れたのかもしれない。

神様がいった。
「あなたが欲しいものはなんですか?」
「夢は叶いました・・・友達も・・・応援してくれてます」
神様は満足そうに頷いた。
「今は失うのが怖いです」
「何を失うのが怖いのですか?」
「今を・・・今を失うのが怖いです。今が好きだから」
神様は微笑む。
「あなたは素敵な人ですよ。ただ、今が何なのかがわかっていないような気がします」
僕は、首をひねった。
「いつまでも、今が好きと言える人でいてください」

「昔はよかったね」
いつも口にしながら
生きていくのは本当に嫌だから

僕は、それからも走った。
それしか知らないのだ。
僕の存在意義だ。
ただ・・少しずつ走るのが遅くなっていく。
あぁ・・老いが僕にもやってきたのだ。
前だったら・・・もっと元気だったら・・・そんなことを思うことが増えた気がする。
僕の居場所が・・・居場所を奪おうとする者がいる。
ここは夢をかなえる場所だ・・・当然だ。
僕の居場所が失われていく。
失われて・・・ないかもしれない。
居場所を奪うものが何かをくれる。
よぎる悔しさを隠しながら、励ましあった。
妬みと戦うこともあった。
深く落ち込むことなど、しばしばだ。
でも、走った。
居場所を奪われるのを感じながらも、走った。

走り続けた栄誉は、形になった。

僕は勇退を迎えられることになった。
満足だ、別の場所に居場所を探そう。
ときによぎる・・・僕は一握りの人間しか得ることができないものを掴んだ。
掴めなかった者たちのことを思うのだ。

神様がいった。
「あなたが欲しいものはなんですか?」
「次の居場所を」僕は、わざと微笑んだ。
神様は、頷きのあとに続ける。
「今は好きですか」
「はい、満足してます」

どんなときも どんなときも
僕が僕らしくあるために
好きなものは好きと言える気持ち抱きしめていたい

「なぜ、今が好きですか?」
なぜだろう・・・やり切った気持ちがあるからだ・・・・僕はそう答えた。
「なぜ、やりきったと?」
僕は・・・僕の居場所を守り続けた・・・だからだ。
神様は、微笑みを残したまま、ゆっくりと首を振った。
「そこの窓を開けて、あちらの世界をのぞいてみてください」
神様は、いつの間にかに、壁にできていた窓を指さした。
僕は恐る恐るその窓を開けた。
その瞬間、世界中をつんざくような・・・大地を揺るがすような声が聞こえた。
<ありがとー!>
<おつかれさまー!」
すべてが僕に向けられたもののようだった。
じんわりと温かいものが伝ってくる。
腹のあたりから、熱いものがこみ上げてくる。
僕のような人間が・・・・こんなに温かい声援をもらえるなんて・・・
その声にはアイツの声があった・・・アイツの声も・・・アイツの声も・・・
僕が夢を奪ったものだ・・・彼らは別の人生を歩み・・・なのに・・・

「あなたは与え続けていたのですよ」
僕は釈然とせず、神様を見る。
「走ることがみんなの勇気になって・・・あなたに声援を送ることが自分を応援することになったり」
僕は窓の外を、再び見た。
「世界は、人間は汚れてます。あなたさえ、危うい汚れを持っています。ただ、あなたの走る姿は純真だったのです」
無我夢中だっただけだ・・・少しでも早く・・・そう思って走った。
「汚れなき物は人の心をうちます。あなたは与え続けていたのですよ」
自分にそんな力があったなんて・・・僕は自分の手を見た。
気づかずにいた喜びに、胸が焦げ付きなくらいに熱い。
シャワーのように浴びる、純真たる感動だった。

神様がいった。
「あなたが欲しいものはなんですか?」
「一人でも多くの人に居場所を。一人でも多くの人に感動を。一人でも多くの人に・・・」
いろんなものをあげたい。
「何をあげるかは、また悩んでください。もっともっと悩んでください。そして、また一心不乱に――」
僕は大きく頷いた。

どんなときも どんなときも
迷い探し続ける日々が
答えになること 僕は知ってるから



先日に引退した荒木選手へのメッセージ?? お疲れさまでした、の気持ちです^^
あんなステージに立ったことがないから、どんな気持ちか分からないよw
想像を走らせました。

多くの葛藤や逡巡の中、もう走り続けたのだと思います。
重圧や恐怖に負けそうだったら、もう走り続けたのだと思います。
頼れるのは自分ですよね。
なかなか自分は強くいられないから、無にして、走り続けるしかないような気がします^^
飄々としているので、その深層まではわかりませんが、張り詰めていたものと戦い続けたと思います。

新しい居場所が与えられました。
どうぞ・・・・
あとは、上の物語に気持ちを込めました^^

お疲れさまでした^^